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千葉地方裁判所 平成元年(わ)131号 判決 1989年9月27日

本籍及び住居

千葉県香取郡東庄町笹川い五五五二番地

会社役員

林政雄

大正五年二月二八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井内顯策出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金八万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和二〇年以来、養父林長吉(妻せいの実父)が千葉県香取郡東庄町笹川い五五五二番地において「林長建材」の商号で営んでいた建築材料販売業を手伝ってきたところ、昭和四二年ころ、養父の死亡に伴い、「林長建材」を引き継ぎ(なお、昭和六三年三月、法人成りして株式会社林長を設立し、代表取締役に就任した。)、昭和四三年ころから生コンクリートの製造販売を始めて、昭和五〇年ころにはJIS規格品製造工場としての認定を受け、生コンクリートを主力商品とし、他に瓦、砂利等も販売していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上げの一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  別表1記載のとおり、昭和五九年分の実際総所得金額が七五四〇万八四一六円あったにもかかわらず、昭和六〇年三月七日、同県佐原市北一丁目四番地一所在の所轄佐原税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が三九九万五二五九円で、これに対する所得税額が一五万七四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定期限を徒過させ、もって、不正の行為により昭和五九年分の正規の所得税額三七四二万二六〇〇円と右申告税額との差額三七二六万五二〇〇円を免れ、

第二  別表2記載のとおり、昭和六〇年分の実際総所得金額が六一七八万二九一六円であったにもかかわらず、昭和六一年三月一〇日、前記佐原税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一四六七万四八八六円で、これに対する所得税額が三一二万二三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定期限を徒過させ、もって、不正の行為により昭和六〇年分の正規の所得税額二九七四万三六〇〇円と右申告税額との差額二六六二万一三〇〇円を免れ、

第三  別表3記載のとおり、昭和六一年分の実際総所得金額が一億六三五六万五七八五円あったにもかかわらず、昭和六二年三月一三日、前記佐原税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一九九〇万六六一七円で、これに対する所得税額が五四五万三七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定期限を徒過させ、もって、不正の行為により昭和六一年分の正規の所得税額一億〇〇二〇万〇八〇〇円と右申告税額との差額九四七四万七一〇〇円を免れ、

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書三通

一  被告人作成の上申書

一  林久子、林勝己及び坂尾稔の検察官に対する各供述調書

一  林久子(三通)及び林勝己(三通)の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の「売上高調査書」「仕入高調査書」「期末棚卸高調査書」「租税公課調査書」「水道光熱費調査書」「通信費調査書」「接待交際費調査書」「損害保険料調査書」「減価償却費調査書」「福利厚生費調査書」「諸会費調査書」「退職共済掛金調査書」「リベート調査書」「外注費調査書」「給料調査書」「退職金調査書」「事業用固定資産除却損調査書」「青色専従者給与調査書」「事業専従者控除調査書」「青色申告控除額調査書」「定期預金利子収入調査書」「収益分配金調査書」「定期積金補てん金調査書」「外貨建定期為替差損調査書」「短期譲渡収入金額調査書」「短期譲渡原価調査書」「長期譲渡収入金額調査書」「長期譲渡原価調査書」「長期譲渡特別控除調査書」「保険金収入調査書」「支払保険料調査書」「一時所得特別控除調査書」「社会保険料控除調査書」 「小規模企業共済等掛金控除調査書」「損害保険料控除調査書」「老年者控除調査書」「扶養控除調査書」及び「源泉徴収税額調査書」と題する各書面

一  検察事務官作成の「売上高調査額の訂正報告書」「仕入高調査額の訂正報告書」及び「減価償却費の訂正報告書」と題する各書面

判示第一の事実について

一  押収してある昭和五九年分所得税確定申告書等一袋(平成元年押第一一六号の3)及び昭和五九年分所得税青色申告決算書一袋(同押号の6)

判示第二の事実について

一  押収してある昭和六〇年分所得税確定申告書等一袋(同押号の2)及び昭和六〇年分所得税青色申告決算書一袋(同押号の5)

判示第三の事実について

一  押収してある昭和六一年分所得税確定申告書等一袋(同押号の1)及び昭和六一年分所得税青色申告決算書一袋(同押号の4)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、所定刑中懲役及び罰金の併科刑を選択し、かつ、各罪について情状により同法二三八条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪の罰金刑を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金八万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、昭和五九年から昭和六一年までの三期分の所得税について、総所得額において合計二億六二一八万〇三五五円を秘匿し、税額において合計一億五八六三万三六〇〇円を免れた所得税ほ脱の事案である。その犯行の動機は昭和六二年以降の売上げの急激な減少を予測してとった措置であるというにあるが、格別の斟酌に値せず、その犯行の態様も関与税理士に予め申告税額を指示して売上げや仕入れのバランスがとれるよう調整させたり、昭和六一年分においては主力商品である生コンクリートの売上げについても二重帳簿を作成するなど巧妙かつ計画的な所得秘匿行為を行った悪質なものであり、その結果、前記のとおりの多額の所得税を免れ、申告すべき税額に対するほ脱率は三期分合計で約九四・八パーセントの高率であることなどを併せ考えると、被告人の刑責は重いといわなければならない。

しかしながら、被告人は、本件発覚後に修正申告をし、ほ脱にかかる本税等は既に完納していること、本件犯行を反省して、現在では事業の第一線から退いていること、古い罰金前科一犯以外に前科がないこと、年齢は七〇歳を超え、健康もすぐれないこと等の被告人に有利な情状もあるので、これらを総合勘案して、被告人を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に処し、懲役刑についてはその刑の執行を猶予するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 神田忠治 裁判官 林敏彦 裁判官 田邊浩典)

別表1 脱税額計算書

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

<省略>

注1 17の金額算出の際千円未満切捨(国税通則法 118条第1項)

注2 20の金額算出の際百円未満切捨(国税通則法 119条第1項)

別表2 脱税額計算書

自 昭和60年1月1日

至 昭和61年12月31日

<省略>

注1 17の金額算出の際千円未満切捨(国税通則法 118条第1項)

注2 20の金額算出の際百円未満切捨(国税通則法 119条第1項)

別表3 脱税額計算書

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

<省略>

注1 17の金額算出の際千円未満切捨(国税通則法 118条第1項)

注2 20の金額算出の際百円未満切捨(国税通則法 119条第1項)

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